ドラフト5巡目からの鮮烈デビュー
昨年のドラフトでタイガースが5巡目で指名。「クオータースロー」と呼ばれる変則サイドスローを武器に、6月1日の対楽天戦(コボスタ宮城)でプロ初登板初先発。5回を5四死球と荒れながらも粘りを見せて、散発3安打1失点で初勝利を挙げた青柳晃洋投手。その後も何度かファームとの間を行き来しましたが、結局今年は一軍で13試合に登板(先発12試合)。4勝5敗で防御率は3.29という成績を残しました。またその数字以上に、来季以降への期待を膨らませてくれるピッチングを見せてくれました。
メジャーも注目
野球を始めた小学生の時から、その変則フォーム一筋でプロ入りを果たした青柳投手。しかし「プロ野球選手」という進路を、現実感をもって強く意識したのは、昨年のドラフト前だけではありませんでした。
横浜市立生麦中学校時代は控え投手ながら、進んだ川崎工科高校では1年生の秋からエースナンバーを背負います。学校自体も甲子園への出場経験はありませんでしたが、3年生の春には競合ひしめく神奈川県大会でベスト16。日本のプロ球団だけではなく、メージャーリーグのスカウトからも注目される存在に。
しかし、プロ志望届を提出して指名を待ちましたが結局名前が呼ばれることはなく、その悔しさを胸に特待生として帝京大学へ進学。首都大学リーグで活躍し、4年の秋季リーグでは6勝3敗・防御率1.66という成績で、ベストナインにも選出されていました。
緊張の一軍デビュー
タイガース入団後は、新人合同自主トレを経て安芸ファームキャンプからスタート。初めての実戦形式となるシート打撃で好投し、江夏臨時コーチからも高評価を得ると、JR四国との練習試合でも1回を無安打無失点。じわじわとその評価を上げていき、3月5日に行われた千葉ロッテとのオープン戦では甲子園初登板を果たします。
初めての一軍の舞台。能見投手の後を受けて二番手で5回からマウンドに上がった青柳投手は、思うようにボールをコントロールできず、初球から10球連続ボール。三者連続四球に犠牲フライなどでいきなり2点を失います。それでも先輩選手の気遣いの声もあり、何とか後続を打ち取ると、金本監督は当初の予定通り次の回もマウンドへ送り出します。
落ち着きを取り戻した青柳投手は6回、ストライクを先行させて無安打2三振と別人のようなピッチングを見せます。監督も「どうなるかと思ったけど、ボールには力があった」と一軍戦力としての可能性を示唆していました。
伝統の一戦でアピール
とはいうものの、克服しなければいけない課題も多く、そのまま一軍に合流とはいかず、開幕はファームからのスタート。公式戦初先発となった3月19日のウエスタン・リーグオリックス戦(鳴尾浜)では5回1失点で初勝利。その後も先発、中継ぎで実戦経験を重ね、5月末時点では11試合に登板(先発4試合)して2勝1敗、防御率は2.81という数字を残して6月1日、いよいよ交流戦での公式戦一軍デビュー。その初登板初先発で初勝利を挙げたわけです。
一軍2戦目の登板となった6月8日の千葉ロッテ戦(QVC)は、5回を投げ切れずに6失点と打ち込まれてしまいますが、その後も一軍で経験を積みながら、変化球の精度やコントロール、クイックモーションなどの課題を少しずつ克服していきます。その成果が表れたのは7月7日、東京ドームでの自身初めてとなる巨人戦。青柳投手は初回から決め球のツーシームとチェンジアップを有効に使い、強力打線を封じ込みます。許したヒットは2回に村田選手にうまく合わせられた右前打1本。それまでの最長イニング、5回を超え、6、7回も先頭打者を四球で歩かせますが後続をしっかりと抑えます。結局8回からはリリーフを仰ぎましたが、自己最多の114球を投げて6奪三振で無失点。うれしいプロ2勝目のウイニングボールを、伝統の一戦で手にします。
100球ヒット1本で初お立ち台
そして3勝目は7月28日のヤクルト戦(甲子園)。初対戦の相手に3回まではパーフェクトピッチング。4回に連打で1点を失いますが、その裏と5回、ゴメス選手による二打席連続本塁打などで大量9点の援護をもらいます。しかし、迎えた6回、先頭打者から三連続四球を与えて降板。何とか勝利は手にしますが、球数もまだ二桁だっただけに、悔いの残る勝利となりました。
また、ホームゲームでの初お立ち台は、8月13日の京セラドームでの対中日戦。初回に先頭打者にヒットを許し、盗塁などで一死三塁のピンチを迎えますが、後続を落ち着いて打ち取ると、2回から5回は毎回3人ずつで片づけます。結局、6回を投げてちょうど100球、許したヒットはこの1本のみ。2本のツーベースと2号ソロを放った北條選手と、緊張のヒーローインタビューを受けることになりました。
レベルアップして来季へ
最終的に今シーズンはこの4勝目が最後の勝ち星となりますが、9月8日の巨人戦(甲子園)では、7回までを初回のヒット3本だけに抑えて無失点ピッチング。1点リードで今季自己最長となる8回に臨みますが、1アウトから2四球を与えたところで降板。後続投手が3ランを打たれて敗戦投手となりますが、成長の跡を見せるピッチングを披露しました。
今までのタイガースにはいないタイプのピッチャー。四球の多さなど、これから向き合わなければいけない課題はまだたくさん残されていますが、その荒れ球も青柳投手の持ち味の一つ。迎えた秋季キャンプでは、体力強化とともにこれまで取り組んできたクイックモーション時の制球力を磨きます。そのクイックの速さは球界トップレベルのタイムを記録。来年の開幕までに、このクイックをしっかりと自分のものにできれば、相手チームにとってはかなり厄介な存在になるはずです。