正妻争いに名乗り
「正捕手不在」と言われて久しいタイガースで、今年すい星のようにデビューして活躍した原口文仁選手、一昨年ルーキーながら92試合に出場して次世代正捕手候補筆頭と目された梅野隆太郎選手とともに、激しいポジション争いに名乗りを上げたのが、ルーキーの坂本誠志郎選手でした。相手打者の観察力や状況判断、配球面といったインサイドワークに長け、ピッチャーとのコミュニケーション能力にも定評があり、リード面での安定感は他のライバルに一歩も引けを取りません。
キャプテンシー
坂本選手は兵庫県北部の養父市の出身。タイガースの能見投手の地元、出石町とは直線距離にしてほんの10Kmほどの距離。山々に囲まれた自然豊かな環境で育った坂本選手は、養父中学までは学校の野球部に所属。軟式ながら高校球界から注目され、大阪の履正社高校に進むことになります。1学年先輩には、今年東京ヤクルトで2年連続トリプルスリーという偉業を達成した山田哲人選手。強者が集まる競争の激しい環境の中、1年生の秋から正捕手としてマスクを被り、2年の夏そして3年の春には主将として甲子園に出場して、チームをベスト4に導きます。
進んだ明治大学では、1年の春からベンチ入り。後に一緒にタイガースに入団することになる髙山選手と共に何度もベストナインを受賞するなど活躍。チームだけでなく大学日本代表の主将も務めるなど、そのキャプテンシーを存分に発揮します。
そして2015年のドラフトでタイガースから2位指名。子供の頃から見てきたタイガース矢野捕手を目標に掲げて、プロの世界に仲間入りを果たします。さらに春季キャンプではルーキーの中でただ一人、一軍沖縄組に参加。憧れの矢野コーチの下で、アピールを続けます。
ほろ苦デビュー
しかし、一昨年の梅野選手同様、ルーキーイヤーの開幕一軍入りも期待されましたが、キャンプ終盤にわき腹を痛めて別メニューに。オープン戦はおろかファームの開幕にも間に合わず、公式戦初出場は4月30日、ウエスタン・リーグ対オリックス戦(神戸サブ)と出遅れます。そこで先発マスクを被って、秋山投手から始まる5投手を好リード。自らのバットでも初安打でタイムリーを記録するなど、チームの勝利に貢献します。
一軍初昇格はゴールデンウィーク中の5月5日。しかしこの時は出場機会がないままに2週間で登録抹消。待ちに待った一軍初出場の機会がやってきたのは、シーズンも後半戦に差し掛かった7月19日。前日に一軍再登録された坂本選手は、いきなり甲子園での伝統の一戦、巨人戦で先発マスクを被ることになります。先発ピッチャーは、「(坂本と)組んでみたい」と指名された同郷の大先輩、能見投手。しかし、能見投手は立ち上がりから乱れ、2回2/3を被安打8、6失点と成す術もなく3回の途中でバッテリーごと降板。坂本選手にとってはほろ苦い一軍デビューとなってしまいました。
一軍での足跡
うれしいプロ初ヒットはその4日後の23日、マツダスタジアムでの広島戦。試合途中からマスクを被った坂本選手は、7回の第2打席に黒田投手からセンター前に弾き返します。さらに第3打席でも一岡投手からセンター前ヒット。守備でも4回以降の後続投手をうまくリードして、広島の強力打線を無失点に抑えます。ゲームには負けてしまい、さらにこのゲームが黒田投手の日米通算200勝目ということで、スタンドの盛り上がりに初ヒットの余韻もかき消されてしまいますが、攻守でしっかりと結果を残します。
その後も代打や守備からの途中出場を重ねながら、ベンチからプロのプレーをじっくり観察。次第に先発マスクを任される試合が増えていきます。8月末の横浜での対DeNA3連戦では、初タイムリーに初本塁打も記録。守備面だけでなく、金本監督も「慣れてきたら打てると思うよ、悪くない」と打撃面での資質にも期待を寄せています。
オフなきシーズンオフ
結局、今シーズンの出場試合数は28試合で55打席45打数9安打2打点、その内、先発マスクは18試合と、数字的には物足りないものとなりましたが、後半戦は最後まで一度も降格することなく、一軍で貴重な経験を積んだ坂本選手。そこで吸収したことは、今後の飛躍のために大きなプラスになったはずです。
シーズン終了後すぐに臨んだフェニックスリーグでは、リード面で確かな成長の跡を見せ、その後の秋季キャンプでの盗塁練習などでも強肩ぶりをいかんなく発揮。若手捕手による正捕手争いは、今後ますます白熱しそうな様相を見せています。
さらに坂本選手は、横田選手や横山、石崎、青柳投手らと共に、11月25日から台湾で行われているアジアウインターベースボールリーグに参加。オフの間も休む間もなく、一カ月近くにわたる実戦機会で技術、体力にさらに磨きをかけます。
そして来年2月1日から始まる2017年の春季キャンプ。「挑む」というチームスローガンの下、改めてタイガース正捕手レースのスタートが切られます。ハードで過酷な争いが繰り広げられる中で、一回りも二回りも成長した坂本選手の姿が見られることでしょう。