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TORABAN Tantou Kisha ColumnCOLUMN INDEX

Vol.2011-28 積極起用で頭角を現した若手選手たち

2011年ペナントレースも1試合を残すのみとなった。143試合を消化して、67勝70敗6分け。勝率5割を割った。

優勝を逃し、クライマックス・シリーズ進出の望みも断たれた10月16日。2009年から3年間、指揮を執った真弓監督の退任が、シーズン終了を待たずして発表された。南球団社長によると「関東遠征中の10月7日、横浜戦のナイター終了後に真弓監督と会談を行った。真弓監督の方から『Aクラス入りを逃したら、今シーズン限りで責任を取って辞任したい』との申し入れがあった。本日の結果を持って順位が確定したので、そういうことになる」とのことだった。


柴田講平 選手

3年間、一度も優勝できなかった。2位が一度に4位が二度。真弓監督自身、かなりのバッシングを浴びてきた。そんな中、評価されるのは若手選手の積極的な起用だろう。それに応え、夏場以降めきめきと頭角を顕しはじめたのは柴田だ。キャンプからセンターのポジション争いを繰り広げ、開幕時は俊介に敗れた格好となった。シーズン序盤にはファームにも落ちた。しかし再登録され、スタメンの機会が増えるにつれて、どんどん力をつけていった。それでも相手投手が左の時は外されることも多かったし、途中で左投手が出てくると代打を送られることもあった。「悔しいです。ファームでもずっと、左右関係なく打ってきたし・・・。左ピッチャーに対して苦手意識なんて、全然ないですよ」。屈辱感を感じた柴田は、とにかく練習した。しかし将来を見据えた監督は、左投手でも柴田を起用するようになった。「左ピッチャーやと余計に燃えます」。その言葉どおり、左も右も遜色なく打ち込んだ。

「左ピッチャーへの対応がいいんだよね。凡打にしても、その内容がいいんだ。やられ方がいい。次は打ちそうというのを見せてくれてるよね。本人にも左ピッチャーを意識して練習をしておけ、と言ってある」と、和田バッティングコーチも目を見張っていた。また柴田の成長ぶりを、片岡バッティングコーチはこんな風に話す。「一番の成長は、選球眼が良くなったことや。バットが内から出せるようになったことでインコースをさばけるようになった。インコースの心配がなくなったので、アウトコースの見極めができるようになった」。内の速い球をファウルすることで、遅い球を待ってさばける。そういことが増えてきた―と、片岡コーチは説明する。柴田本人も、「確かにファウルで粘れるようになりました。球数をたくさん投げさせるのも、ボクの仕事ですから」と納得顔だ。「ゲームに多く出るようになったということもあるけど、練習の成果が大きいね」。愛弟子の成長は、片岡コーチにとってもこの上ない喜びである。また練習だけでなく、より結果を出す為の道具の工夫もしている。バットのモデルチェンジだ。これまで細いバットをしならせるイメージで使っていた柴田。アマチュア時代は長打も多く打ってきた。


田上健一 選手

けれどプロに入り、1軍で出だして気づいた。「自分はプロでは長打もないし、内野の頭を越して外野の間を抜くような打球を打たないと」と。タイプ的にも「しならせる」というより「衝突する」タイプ。そんな折、海老野トレーニングコーチが古巣・スワローズの青木からバットを貰ってくれた。8月の神宮遠征の時だ。「前から欲しいとは思ってたけど、いいタイミングで出会えました」。早出練習で使ってみると「すごい感触が良かった」と、思った以上の手応えに笑みがこぼれた。通常、シーズン中にバットを替えるというのはリスクも大きい。バッティング自体を崩しかねない。だが、「全く違う形・・・全体的に太いバットなんです。形状が全然違うから、難しいと思ったら・・・」と、本人も驚くほど“相棒“とはすぐに仲良くなれた。8月に1試合と終盤数試合に1番の打順に入った。「とにかく出塁すること」を目標に掲げつつも、思いどおりにいかない時もある。

「気持ちに力を入れてもいいけど、体に力を入れちゃダメ。バラついちゃう」。体はリラックスさせながらも、100%の力を出せるように―。来季「1番バッター」を勝ち取る為に、最後まで柴田は戦い抜く。

柴田の「1番バッター」に待ったをかけたのが田上だ。順位確定後ではあるが今季初昇格し、活きのよさを見せつけた。ルーキーイヤーの昨年は、1打席のみだったが無安打に終わった。プロ初ヒットを早く―。田上は自身にプレッシャーをかけた。昇格即、代打での出場となった10月19日。念願の初安打を記録した。「意外と普通に落ち着いて試合に入れた。初ヒットだとわかってたけど、試合に入ってたんで、そういう感覚はなかった」。試合後も落ち着いて話す田上。 翌日はプロ初スタメンも経験。そして広島では初の猛打賞と盗塁まで記録した。


田上健一 選手

全てに「初」がつく中、浮足立つことなく堅実なプレーを見せる田上。ファームでは吉竹監督から「準備」の重要性を厳しく叩き込まれてきた。またバッティングにおいても、吉竹監督から授かった“三ヵ条”で、確実性を上げた。その“三ヵ条”とはこうだ。(1)バットを長く持て。「短く持つと小さくなるからと。長く持った方がしならせることができますから」。(2)ステップをあまり大きくとらない。「ブレをなくすってことです」。(3)右脇を締めろ。「その為に右腕をチューブで胴体に縛ってバッティング練習してるんですが、それで右にしっかり引っ張れるようになりました」。柴田、田上の争いだけでなく、それぞれがライバル達より優れたものを模索し続けることがチーム内競争となり、それがチーム力アップに繋がる。


小宮山慎二 選手

若手捕手の競争も激しい。小宮山が一歩抜きん出ているが、清水もアピールを忘れていない。9月30日。岩田をリードし、スタメンマスクで初めて勝利を味わった小宮山は、試合後「おいしいですね」と目尻を下げ、ベビーフェイスをほころばせた。その後、10月5日には能見とのコンビでも勝った。吉田バッテリーコーチも「藤井と小宮山を上手く交互に使っていきたい」と話し、小宮山には主に能見、岩田と組ませることを明かした。「同じピッチャーと続けて組ませた方が、今の時点では勉強になるからね」と吉田コーチ。「例え失敗しても、次に修正して臨みやすいし、頭も整理しやすい。あれもこれもじゃテンパッちゃうからね」というわけだ。


小宮山慎二 選手

何といっても、能見も岩田も超一流投手である。得るものは大きい。特に能見は「若いキャッチャーを育てることができるピッチャー」(吉田コーチ)だという。能見というピッチャーは、「年上のキャッチャーには自分の意見をズバズバ言うけれど、年下のキャッチャーには全部任せて、違うなと思った時だけ助言する」というのだ。「まずはやりやすい環境を整えてやって、来年はできるぞというのを作って今年を終わらせてやりたい」。首脳陣の親心だが、小宮山もそれにしっかり応えている。能見も試合後には必ず小宮山を讃えるし、新井も「試合数をこなしてるうちに、当初より雰囲気も出てきたし、落ち着いて見える」と安心感を持ち始めたという。ナインの中でひとり逆方向を向いての守り。「要」とも称されるポジション。小宮山だけでなく清水も、常に「まだまだです」と口にする。ピッチャーの、そしてナインの絶対的な信頼を得る為、これからも研鑽を続ける。

シーズン終了直後からは、既に来シーズンへ向けた戦いが始まる。若虎達の切磋琢磨はいずれ、「優勝」という目に見える形にまで熟成されるだろう。