不本意なプロ入り2年
2013年度のドラフト1位指名から3年目の今年、初めて二桁勝利(10勝)を挙げた岩貞祐太投手。熊本・必由館高校入学後に投手に転向し、高校時代は全国大会への出場もなくほぼ無名の存在ながら、進んだ横浜商科大学で次第に頭角を現しました。
2年生の時には、現・巨人の菅野投手や広島・大瀬良投手、阪神・梅野捕手らと共に日米大学野球メンバーに選出。4年生になり、ドラフト前のリーグ戦最終戦では9回ノーヒットピッチングを見せ、大会ベストナインに選ばれています。そんな岩貞投手をタイガースは「外れ外れ」ながら、日本ハムとの競合の末にドラフト1位で獲得しました。
プロ初年度は、途中合流した沖縄キャンプ中に肘を故障して出遅れ、結局プロ初登板を記録した8月に1勝を挙げただけで、2年目も勝ち星は交流戦で挙げた1勝のみ。シーズンの大半がファーム暮らしとなっていました。
そこで2年目のシーズン中、もう一度自分のピッチングスタイルを見直し、ファームの香田投手コーチと共にピッチングフォームの改造に着手。秋季キャンプとそのオフに参加した台湾でのウインターリーグで手応えを得ます。
掴んだチャンス
迎えた2016年。春季キャンプからオープン戦と続いた、先発ローテーション5、6番手をめぐる激しい競争を勝ち抜いた岩貞投手は、4月2日のDeNA戦(横浜)を、7回被安打4、12奪三振という快投で幸先の良いスタートを切ります。
4月は5試合に先発。なかなか打線の援護に恵まれず、勝ち星こそ2つでしたが、リーグトップの46奪三振、チームトップの防御率0.79という数字を残します!そして5月27日には東京ドームでの巨人戦では菅野投手と投げ合い、9回被安打3でプロ初となる完投勝利を完封で飾ります。
過去2シーズンには見られなかったピッチングの躍動感。その要因は、試行錯誤の末にたどり着いたフォーム改造もさることながら、小気味よく、強く腕を振れる思い切りと、本人の積極的なプラス思考が、持ち味であるストレートに本来のキレをもたらしていたのでは…。
また、今年4月に郷里・熊本を襲った震災に心を痛め、野球選手としてできる限りの支援を続けながら、同時にその活躍を楽しみにしてくれる人々の声に応えようと、目いっぱい腕を振り続けてきたメンタル面も、結果的にプラスに作用したかもしれません。
夢の球宴に出場
しかし、交流戦が始まった6月頃から、勝負所で痛打を浴びる場面が目立ち、長いトンネルに入ってしまいます。6月26日の広島戦(マツダS)では、完投勝利目前の9回2アウト2ストライクからサヨナラ敗戦につながる同点打を許すなど、悔しい思いも。
それでも前半戦の快投が評価され、今年は夢の球宴、オールスターゲームに原口選手、藤浪投手と共に監督推薦で出場を果たします。その出番は、7月16日の第2戦、大学時代に何度も登板し、プロ初勝利を挙げた場所でもある横浜スタジアム。
2番手で3回から2イニングを任された岩貞投手は、それぞれ先頭打者にヒットを許すものの、2併殺で切り抜け、無失点で緊張のマウンドを降ります。
「いい勉強ができました」と、後半戦からの巻き返しをはかりますが、それでもなかなか思うように結果がついてこない日々が続きました。
9月の快進撃!
「夏場はコンディションというより、考えすぎてしまって…」と後日本人が振り返るように、6、7月は未勝利に終わり8月も1勝止まりと苦しみますが、周囲からの助言もあり再び輝きを取り戻します。
圧巻は、迎えた9月。4日のDeNA戦(甲子園)で8回被安打3と好投し、やっと今季6勝目を挙げると、続くヤクルト戦(神宮)では相手打線を寄せ付けず、今季2回目となる完封勝利。結局9月は4戦4勝で防御率は0.74!見事、セ・リーグの月間MVPに輝きます。
そして、自身4連勝、チームとしても今季初の6連勝で迎えた10月1日の今季最終戦。これまで事ある度に何度も貴重なアドバイスを受けてきた大先輩・福原忍投手の引退試合で先発を任されます。
「勝っている状況でフクさんにバトンを渡すことだけを考えていた」
その気負いからか、初回と二回は連打でピンチを招きますが、渾身のピッチングで切り抜けると、3回以降は巨人打線を寄せ付けませんでした。7回まで腕を振り抜き、無失点のまま福原投手につなぎます。3番手、安藤投手、最後はプロ初登板となった望月投手も同様に無失点。完封リレーという最高の形で福原投手のラストゲームを演出しました。
「エース」への期待
この日、同時に岩貞投手の3年目、2016年シーズンが終了。途中、不振に悩みながらも、終わってみれば最後までほぼローテーションを守り抜き、25試合に先発。規定投球回数もクリアして10勝9敗、防御率はチームトップの2.90をマーク。過去2年とは見違える、飛躍のシーズンとなりました。
3年前のタイガース入団時には、自身も学生時代から手本としてきた左腕の能見投手を目標として掲げ、その背中を追ってきました。その憧れの存在が初めて二桁勝利を記録したのは、5年目30歳のシーズン。来季、25歳で4年目のシーズンを迎える岩貞投手の将来に、ますます期待が高まります。