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Vol.2010-12 『最後の切り札』スタンバイ!勝負の秋が始まった。


能見篤史 選手

昨季13勝左腕の姿がそこにあった。炎天下のマウンドで格の違いがひときわ際立つ。スタンドを埋めた猛虎党が固唾を飲んで見守る中で、男は文句無しの投球を見せつけた。

9月3日(金)対オリックス19回戦が鳴尾浜で行われていた。一軍同様に激しい三つ巴(阪神、福岡ソフトバンク、オリックス)の覇権争いが続くウエスタンリーグだが、この時点で首位の阪神と3位オリックスとの差はわずか0.5ゲーム。しかもオリックスは、ラロッカ、セギノールを始め濱中、赤田と言った実績ある選手がズラリと並ぶ超強力打線を組んで必勝体制で臨んでいる。

先発マウンドには、能見篤史投手がいた。一軍公式戦(5月2日・対巨人~甲子園)で走塁中に右足甲を痛め、『右足楔状骨(けつじょうこつ)剥離骨折』で長期離脱を余儀なくされたスリムなサウスポーが、地道なリハビリテーションを経て、ようやく昇格への最終段階まで辿り着いた。ほぼシーズンを通じて先発投手に悩む一軍の状況を知るファンにとっても、この日の能見投手の投球は重大な関心事であったのは間違いなく、スタンドは鈴なり。ネット裏最前列には20代位の若い女性二人が通路に直接座り込んで、日焼けも省みず一球一球を喰い入るように見つめていた。

8月26日の故障後実戦初登板(ウエスタン広島戦・・・2回1安打1失点)に続く『最終テスト』は、堂々としたものとなる。立ち上がりからストレートが走り、追い込んでから変化球で仕留める。チェンジアップで空振りさせて速球で詰まらせる。など、多彩なパターンで強力打線に的を絞らせない。直球の最速は148キロ。持ちダマも一通り投げて6回1/3(79球)を2安打無失点。10奪三振で四球は1つだけという安定感抜群の内容だった。

「今日は球数制限の中で、イニングも5回位かな?と思ったけど、(7回途中まで)長いイニングをしっかりと投げられたと思う」。能見が納得の表情で振り返った。途中2度コーチがマウンドに出向く場面もあったが、「身体の張りはずっとある。・・・炎天下で投げるから、その辺はボクの中では来るものと思っていたので、別に問題はない。トレーニングによる追い込みで身体に張りが出るのも織り込み済みだった。すべては臨戦態勢に持って行く為に必要な過程(プロセス)であり、準備として、思ったよりも手応えは良かった!」ようだ。一軍は優勝争いの大事な時期を迎えるが、「ボクはただ、もうチームに貢献するだけ。投げる機会があればイイので・・・」と話し、敢えて意識過剰にならないよう努めて冷静に答えていた。

中西清起ファーム投手コーチによると「(トレーニングによって)左太モモにここ2~3日張りがあって、それが左ヒザ裏あたりまで来ていた」そうだが、「本人がここをクリアしないと!と言うので問題はないと思う」との事。「真っ直ぐにキレがあったし、変化球が少し多く感じたけど、チェンジアップ、フォークとも腕を振れて、ゾーンも良く、低めにも来ていた」と普段は厳しい中西コーチが褒め言葉のオンパレードだ。「敢えて課題をあげるとすれば、ベースカバーかな?」・・・一塁ベースカバー時における走り出しの一歩目、ニ歩目にまだキレがない点を指摘するものの、「投球の内容は問題ないと言う事。変化球を『遠くへ低く』(理想的にコントロール出来て)しっかり腕も振れてるし、・・・後は上(一軍)の打者への感覚、技量になる」。ほぼ満点の評価を与えていた。


野原将志 選手

ファームの総帥・平田勝男監督の見たても、やはり合格点。「言うことない。キレ、スピード、コントロール。ヒザの違和感があったらしいけど、球数も79かな?予定通りや。(オリックスは)一軍クラスの打線だったし、能見にとっては本当に良かった。イイ実戦の試合が出来たんじゃない?フィルディングとかそういうのもクリアして行ってるんで・・・!」。その上でチームとしては、「相手の立ち上がり。コントロールに苦しんでる投手を打つか?」などの課題を挙げる。それでも、「能見とかが投げるとサードとかショートとか、内野も良い緊張感があって良かったんじゃない?」と概ねご機嫌だった。

打線では、若き大砲候補の野原将志内野手が7回オリックス3番手・仁藤からレフトへダメ押しのソロアーチを放つなど、3打数2安打とアピールした。「(本塁打は)意外と飛びましたね。打った瞬間は入らないかと・・・芯は芯だけど、ちょっとこすった。風に助けられた。ただ、その前のサードゴロが要らない。もったいないと言うか・・・ああいうのが印象に残るから」。守っている野手は、相手打者の打撃内容を意外と良く憶えているものらしい。そのイメージの中に自分の悪い凡打を植え付けたことが気に入らないという。

野原将は4年目の今季86試合に出場して、打率.288本塁打5打点33(9月6日現在)。着実に進歩を遂げて、一軍デビューも現実味を帯びて来た。巨人・坂本、中日・堂上直らと共に高卒野手として将来を嘱望されて入団。ライバル達の出世を横目に牙を磨いた結果がもう少しで花開くところまでに近づいている。その時のために「準備はしとかないと。いつでも。とりあえず、いくら下(ファーム)で打ってもねぇ。そう言われたらおしまいなんでね。上(一軍)の人はそういう。上で打ってナンボの世界。結果残して行かないと・・・」。


野原将志 選手

ただ、今季一軍の現状から打撃が売りの若手がチャンスをもらうには、かなりハードルが高いと言わざるを得ない。そのあたりを八木裕ファーム打撃コーチに訊いてみた。「(野原将は)ある程度までは来てます。但し、まだ苦労する部分も。もう1ランク、いや2ランクかな?上がって行かないといけない。その部分は、言葉では言い表せない。数少ないチャンスで結果出すには余程の実力がないと・・・少ないチャンスでは実力が出にくいもの。勿論まぐれはあるけど、まぐれはまぐれだから(長続きはしない)。この一年で前よりストレートに少し対応出来るようになった。(バットスイングの)スピードが上がったかな?と思う。(ただ)まだ、キレある真っ直ぐには・・・基本的に変化球打ちのフォームだから」。それでも、考え方で打てるようになると言う。『代打の神様』と呼ばれた八木コーチの言葉だけに説得力が違った。


柴田講平 選手

ファームもV争いの緊張感あふれる中で、選手それぞれが自らの個性を磨こうと鎬を削る。この試合で一番打者の柴田講平外野手は、盗塁失敗もあったが、普通なら単打で終わりそうなセンター前の当たりを二塁打とする好走塁が光った。「あれは判断ですね。外野手の捕り方。(あの態勢では返球が難しいとか)ボクも外野だからわかる。いつもシートノックで(相手野手の)肩の強さとかいろいろ見てる」。正に普段からの観察、意識の高さがプレーに活かされている。


柴田講平 選手

ルーキーだった昨季終盤、一軍で東京ヤクルトとの厳しい3位争いを経験。期待された今季は故障での出遅れが大きく響いたカタチだか、「(一年目に)ヤクルトの福地さん、青木さん、野口さんらのプレーを見て『こうしなくっちゃ』とかたくさん感じた」事がベースにある。今季は新人の藤川俊らライバルに先を越されたが、地道な努力は必ず報われる!と信じて、柴田は日々精進を重ねて行く。