遠山奬志 育成コーチ
ウエスタン・リーグの開幕から一ヶ月以上が経過し、4月が終わった時点でタイガースファームは14勝8敗5分とウエスタン・リーグ首位をキープしている。吉竹春樹ファーム監督の「みんなにチャンスを与える」という方針のもと、体調が万全であればルーキーにも育成選手にも経験を積ませるため積極的に出場機会が与えられており、これがチームに良い影響を与えているのだろう。また、ここまでチーム防御率2.53、14勝中10勝が2点差以内の勝利という内容は、先発を任されている若いピッチングスタッフが安定した力を発揮していることが大きい。
昨シーズン後半戦、一軍先発ローテに抜擢されると高卒ルーキーながら4勝を挙げ、今シーズンはさらなる飛躍が期待された秋山拓巳投手(20歳・5月1日時点での年齢、以下同)。じっくりと調整させるために春季キャンプはファームスタートとなったが、練習試合で結果を残せず安芸に一軍が合流する前に帰阪。教育リーグ、オープン戦でも立ち上がりの悪さが目立ち、目標に掲げていた開幕一軍はならなかった。しかし、春季キャンプから修正ポイントに挙げていた投球フォームも、ウエスタン・リーグ開幕後は前に体重を乗せて投げられるようになってきた。また苦しんでいた立ち上がりの制球面も安定してきており、これまではカウントが悪くなると「ここでボールになったらどうしよう」(秋山投手本人)と悪いイメージばかりを考えて弱気になっていたようだが、ストライクを取れるようになったことで強気で攻めることができるようになってきた。昨シーズン後半戦は一軍投手陣の救世主的存在となった秋山投手だが、中西清起ファーム投手コーチは「まだ20歳なんだからもっと上を目指してもらいたい。上のローテで何年もやってもらわなくちゃいけないピッチャー。去年は一軍の先発ローテがああいうことになったんで、破竹の勢いで勝ったけど、基本からやることはまだまだいっぱいありますよ」と語った。秋山投手も「去年が理想ではない。もっと上を目指したい。ファームで投げてる悔しさがあるので、早く一軍で投げたい」とさらなる高みを目指している。
鶴 直人 選手
高い潜在能力を持ちながらプロ入り以来ケガに泣かされ続けた鶴直人投手(24歳)は、昨シーズン嬉しい一軍初勝利を挙げ、シーズン途中まで先発ローテの一角を担い2勝を挙げた。今春キャンプから新フォームに取り組み、オープン戦でも結果を残したが、一軍投手陣の層の厚さに阻まれファームスタート。現在はフォームをワインドアップにしたり元に戻したり「いいところを取り入れて、オリジナルを作り上げたい」と最適のフォームを模索中。またクイックのスピードにこだわったりと各登板ごとに自らテーマを設定すると同時に、ボールの質も追求して一軍昇格のチャンスをうかがっている。
蕭一傑 選手
ウエスタン・リーグの開幕投手を務めた蕭一傑投手(25歳)は、6試合に登板して2勝、防御率2.70という安定した成績。3月、4月はリハビリだった過去二年と違って、今年はキャンプを完走できたことが好調の要因だ。技術的にも昨年7月に行われたハーレム大会に台湾代表として参加後、右肩を倒して投げるフォームに変更し、昨シーズンの最終戦やファーム日本選手権などの大一番での好投へとつなげて自信を深めた。昨オフに徴兵義務も終え、そろそろ一軍で結果を残したいところだが、入団以来の課題となっているのがまっすぐのスピード。ただ蕭投手自身は「速いストレートよりも強いストレートを投げたい」と数字にあまりこだわりはなく、それよりもカーブをもっと上手く使う必要性を感じている。カーブを有効的に使えれば、まっすぐとの緩急も生きてくるし、スライダーなど他の変化球はより効果的になる。この課題をクリアし、ファームでも好調を維持できれば、一軍昇格のチャンスも訪れるだろう。
蕭投手と同じ台湾出身の鄭凱文投手(22歳)も好調を維持。サイドから放たれるストレートの威力は十分で、調子の良いときはファームの打者では太刀打ちできず、中西ファーム投手コーチも「状態はずっといい」と絶賛する。ただ、投球が単調になって失点を重ねることがあり、ストライクゾーンを上手く使うことと緩急を使うことが課題で、遠山奬志育成コーチも「自分の引き出しをもっと作って欲しい。緩急を使ったりしてピッチングの幅、バリエーションを広げて欲しい」と指摘した。
鄭凱文 選手
昨シーズンに比べて一軍投手層の厚みが随分と増したタイガースだが、少し気になるのが投手陣の平均年齢。タイガース開幕一軍登録メンバーの投手陣平均年齢は29.5歳(開幕時点での年齢)で、12球団で3番目に高い数字だ。また他球団を見渡せば、ダルビッシュ有投手(日本ハム)、田中将大投手(楽天)、涌井秀章投手(西武)、成瀬善久投手(ロッテ)、東野峻投手(巨人)、山口俊投手(横浜)、チェン投手(中日)、前田健太投手(広島)、由規投手、村中恭兵投手(共にヤクルト)など、チームの主力となっている若手投手の存在が眩しい。だが、近い将来にチームの屋台骨を背負うであろう若い投手たちが、ファームとはいえしっかりと結果を残していることは非常に心強い限りである。