エンタメ

コラム・ブログ

TOP > エンタメ > コラム・ブログ > トラ番担当記者コラム

TORABAN Tantou Kisha ColumnCOLUMN INDEX

Vol.2011-27 残り試合を全力で!

2011年ペナントレースもいよいよ佳境に差し掛かった。今年は3月11日に起こった東日本大震災の影響で、プロ野球の開幕が2週間ほど遅れた。それによって10月に入った今なお、熱い戦いが展開されている。

パ・リーグはホークスが早々と優勝を決めたが、セ・リーグはここへきてドラゴンズが首位に踊り出、CS争いも未だ混沌としている。その渦の中心にいるのが、タイガースだ。先の京セラドームでのスワローズ3連戦では、3タテという“首位いじめ“を敢行するとともに、3位を射程圏内に捉えた。

タイガースにとってもこのカードは、「リベンジ」の意味合いが強かった。1週間前の神宮、そしてその前の神宮と、6連敗を喫していたのだ。特に先の神宮では、してはならないミスが重なっての敗戦だった。気合いを入れて臨んだ初戦は、打線の爆発を呼び込んだ。


金本知憲 選手

初回は藤井だ。一死からマートン、金本の連打で一、二塁となったところで、ライト前へ同点のタイムリーを放つと、秋山のピッチャーゴロでは二塁へ併殺崩しのスライディングを見せ、勝ち越し点に繋げた。再び追いつかれるも、四回にはブラゼルの勝ち越し弾。一死一塁から、またもや藤井が右前打。一、三塁から平野のタイムリー。5点目は大和の犠牲フライで、藤井もホームを踏んだ。五回は2四球と1安打で満塁の場面。ここでも藤井は巧打を見せた。インサイドの球をおっつけ気味にセンター右へ。藤井らしいバッティングで、更に2点を追加した。

金本も藤井も共に猛打賞。三塁まで進んだ金本から、「オレら2人とも猛打賞やな」とお互いを讃えるジェスチャーが送られたが、一塁塁上の藤井は「『今の当たり、セカンドまで行けたんちゃうんか』って怒られてるんかと思ったわ」と頭を掻いていた。そんなイケイケムードに後押しされて、ダメ押しの2点を加点。結果、9-2で快勝した。実は藤井、試合前にこんなことを話していた。「この前は秋山にほんまに申し訳なかった・・・。今日は絶対やり返したいし、秋山に勝たせたい!」前回の神宮で、二死満塁から高く上がったフライは秋山と藤井の間に落ち、スワローズに先制を許してしまった。

自らを責めた藤井。藤井自身もその翌日から4試合、スタメンマスクを剥奪されていた。「4試合スタメン外れて、リフレッシュとかはない。色々な思いはあった」。申し訳なさと悔しさ。それらを跳ね返すような猛打賞であり、スライディングであり、初回の福地を刺したスローイングであった。残念ながら秋山に勝ち星をつけてやることはできなかったが、チームへ貢献できたことで、藤井の心はほんの少しだけ晴れた。


鳥谷 敬 選手

しかし勝利とは裏腹に、この日ナインを驚愕させることがあった。ガラガラのスタンドだ。いつもならタテジマや黄色のユニフォームで埋め尽くされるスタンドが、あちらこちらで青いシートが剥き出しになっている。入場者数18030人。2004年に入団した鳥谷にとっても、初めて見る光景だった。「これが現実でしょ。観る魅力のない試合ということでしょ」。言葉はクールな鳥谷だが、目の当たりにしたその光景は、真摯に受け止めていた。「強いと弱いとじゃ、1勝の重みが違う」とし、「もし自分がファンの立場で、どんな試合を観たいかと言えば、順位を争っている厳しい試合。順位も何も関係ない試合を観たいとは思わない」と話した。

「自分達がやってきた積み重ねが現実となっている。でも、だからといって、急に何かを変えて固くなってミスするのだけは良くない。今までどおり、自分達のやってきたこと、できることをやる」。そう。選手は決して手を抜いてきたわけではないのだ。必死に戦ってきたのだ。しかしここで改めて誓った。「全力でやり抜く!」鳥谷の言葉は、全選手の総意だ。


鳥谷 敬 選手

その思いを、鳥谷はしっかりとプレーに顕した。再三に渡る好捕球。「自分のところに飛んできたのは、全部捕るのが仕事ですから」。小憎らしいほどサラリと言ってのける。また1点先制した後の八回には、「次の1点が大事になると思って打席に入った」と、二塁に柴田を置いてタイムリー3ベース!「外野が前にきていたので、ストライクゾーンにきたら思いきって振っていけば」。ショートの頭を越し、左中間を破った当たりに、快足を飛ばして三塁を陥れた。これが新井のタイムリーに繋がり、3点目をゲット!

この日はベンチも執念の采配を見せた。八回二死から、今季初めて藤川に“イニングまたぎ”を課したのだ。1点でも多く取って、球児を楽に九回表のマウンドに送りたい―。そんな思いも鳥谷を奮い立たせたのだ。一見クールな鳥谷。しかしその内面は熱く燃えたぎっている。その炎は144試合終わるまで、決して消えることはない。


藤川球児 選手

連勝には殊勲者が多くいるが、マートンもその1人だ。好調なバッティングで連続試合安打を延ばし、10月10日、28試合連続を達成した。これはタイガース史上、1位タイ記録。01年の桧山の記録に並んだのだ。「オレん時は、最初そんなに調子良くなくて始まったんやけど・・・」。桧山は振り返る。「経験が大きいかな。配球を読んだりね。あとは運もある。ポテンヒットなんかもあったから」。しかし当時のタイガース。最下位というチーム成績では、他に話題がない。どうしても注目が集中してしまった。「最後の方はマスコミもうるさくてなぁ。毎日毎日『どうですか?』って訊いてくるから、『そんなもん、いつかは途切れるんやから!』って言うててん」。少なからずプレッシャーがあったようだ。

97年に開幕から24試合連続安打を達成したのは、和田バッティングコーチだ。「流れに乗ると、1本はいつでも打てるんだよ。2本目をどうしようかという感じ。でもマークもきつくなるからねぇ」と当時を思い出し、語ってくれた。「この間まではトリも続けてたからマークが分散してたけど、マートン1人になると厳しくはなってくるだろうね」。ちなみに当時は「他が打ってなくて、オレ1人やったからなぁ」と、相当マークはきつかったようだ。しかもまだ春先。これから調子を上げていこうかという開幕からの連続安打だ。マートンとはまた違う価値がある。

その和田コーチが下を巻くのが、マートンの「準備」だ。「打つ為の準備は、そりゃ凄いよ。バッティングの準備だけじゃないよ。コンディションの作り方であるとか、様々な工夫。全てにおいての『準備』はホント凄い」。試合中、ベンチでノートに書き込む姿は有名だが、打つ為の道具にも工夫が見られる。今年は節電対策で、夏場のドーム球場は照明をやや落としていた。ほんの少しの異変も察知するマートンは、ドーム球場用に黄色いゴーグルを採用した。

どう違うのか尋ねると、実際のボールを手にとって詳しく説明してくれた。「通常、球種の判別はボールの回転で見分けるんだけど、この縫い目を見るんだよ。フォークならこう、スライダーならこう」。ボールを回しながら、球種の違いによる縫い目の見え方のレクチャーが始まった。


マット・マートン 選手

「ドームだとぼやけて、どの球種も同じに見えるんだよ。ところがこのイエローグラスをかけると、クリアにハッキリ見えるんだ」。照明が元に戻り、ゴーグルはもう必要なくなったが、何か異変があるとすぐに対処するところにも、マートンの姿勢が顕れている。だからこそ、「1本のヒットを簡単には考えていない選手だし、1日1本じゃ満足しないだろうね」という和田コーチの高い評価になるのだ。チャンスメイクもできて、ポイントゲッターにもなれる6番打者。来日2年目の今季は、首位打者のタイトルも視野に入ってきた。

さぁ、泣いても笑っても残り14試合。まずは眼前の敵・ジャイアンツを倒して、あとは勝てるだけ勝っていくだけだ。全力で。