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TORABAN Tantou Kisha ColumnCOLUMN INDEX

Vol.2011-26 ペナントレース終盤 ジャイアンツ3連戦回顧


能見篤史 選手

ペナントレース終盤にきて、9月23日からの対ジャイアンツ3連戦は、非常に重要な意味を持つ戦いであった。3位のジャイアンツとは2ゲーム差。3連勝すれば入れ代わる。“貯金”も蓄えることができる。

初戦の先発には、“ジャイアンツキラー”の能見を立てた。このところ、シーズン序盤ほどの勢いがない能見。彼は今、自身の体の変化と向き合っていた。「ビデオを観ると、体の使い方が自分の感覚と比べるとズレがある」というのだ。「去年の方が、だいぶ良かった。イメージと感覚が同じだった」。自分でイメージした体の使い方と実際の動きとのズレ。「なるべくイメージに近いようにはしたいんですけどね・・・」と、練習でも試行錯誤した。

更に、こう自己分析もする。「今年中には難しいかもしれない。ちょうど体の変わり目なんやと思う」。30歳を越え、微妙な肉体の変化が起こっているのではないかと考えているのだ。山口ピッチングコーチに訊いてみると、「体の使い方?どうやろなぁ。まぁ能見のように腕を強く振るタイプのピッチャーは、疲れてくるとブレやすいのはあるわな。内海と投げ合ってるのを見たら、力感が全然違うやろ」と、まずはシーズンを通しての蓄積疲労を挙げる。それでも、エースは勝たなくてはならないのだ。「あとは読み合いですね。シーズン終盤は変わってくる。考えながら・・・あとは駆け引きですね」。

序盤、相手打者をあれだけ苦しめた自慢のフォーク。このところ見極められてきたと感じるや、これまであまり投げなかったスライダーも使うようにした。そしてこの日は、チェンジアップを多投した。けれど思うようにはいかなかった。三回までは6三振を奪うなど、立ち上がりこそ順調だったものの、二回り目に入ったところでフィールズに先制の2点タイムリーを許してしまい、続く五回には4番・阿部にレフトへタイムリー2ベースを運ばれた。「三、四、五回と全部先頭を出したからね。なかなかそこで引っ張るのはね」。エースを五回で代えた理由を、久保ピッチングコーチはこう説明した。確かに失点は全て、先頭打者を還してのものだった。

球種の選択に関して能見は、「色々考えてのこと。何が正解かは分からない」と話した。それはそうだ。相手も能見攻略に必死なのだから。残るジャイアンツ戦は10月の東京ドーム3連戦のみ。ここで登板機会があれば、能見は必ずやり返す。結果的に同点に追いつき引き分けに終わった第1戦だったが、登録メンバーを1枠余したり、代走に投手を使うなど、万全を期したとは言い難い試合となった。


柴田講平 選手

翌24日は、ナインに強い気合いが漲っていた。打線が活発に機能し、二回に5点、七回に4点を挙げた。平野、ブラゼルが猛打賞、新井は2安打2打点、マートンも11号ソロを放った。その中でひときわ輝きを放ったのが3年目の柴田だ。新井の3ベースで幕を明けた二回。ブラゼルの犠飛、マートンのソロで2点を先制。二死から再び藤井が中前打で出塁すると、岩田、平野の連打で満塁となった。ここで柴田は頭を巡らせた。第1打席の悔いがあったからだ。「インコースの球、狙ってないのに体が反応して腰が開いてしまった」。この反省から、「入ってくるボールに開かず、腰で回転してバットを出そう」と切り換えた。


柴田講平 選手

あとは積極的に振るだけだ。東野のスライダーを、開かずに思いきり振り抜いた。そして俊足を駆って三塁を陥れた。嬉しいプロ初タイムリーは、満塁走者一掃の三塁打となった。「最大のチャンスに恵まれて、生かせたのがよかった」。最高の笑顔を輝かせた。常日頃から、わかりやすい表情をしている。エラーをした後は、可哀相なくらい悲しげな表情を見せる。今にも泣きだしそうなくらいに。

しかし活躍すると一転、子供のようなあどけなさで笑顔を炸裂させる。そんな素直な気質から、初めてのお立ち台では思わず「みなさんには大変、迷惑をかけています」との言葉が出た。ドッと沸いた聖地。詰めかけた4万6千を越す観客だけでなく、テレビの前のタイガースファンの心も虜にしたに違いない。常に全力プレー。たまのミスはご愛嬌。次代のタイガースを背負って立つ一員に、柴田が今、名乗りを挙げた。


鳥谷 敬 選手

9-4の快勝から一夜明けて、最終戦は決定打の出ない試合で敗れてしまった。11安打を放ちながらも2得点。記録に表れないミスもあった。七回の追加点を奪われた場面で、先頭打者を自身の失策で出塁させてしまった鳥谷。「あれはミスです。もう一歩前?前にというより、捕ればアウトなんで。単に弾いたのでミスです」。猛省するばかりだった。しかし鳥谷が素晴らしいのは、決して引きずらないところだ。徹底的に反省はする。そして二度と起こらないようにする。それはバッティングにおいても同じだ。打ち損じたり三振したり、悔いの残る打席は多々ある。けれど「終わってしまったことは二度と帰ってはこないから」と、いつまでも引きずってはいない。

そのきっぱりした“割り切り”は、打席内容にも顕れている。四球の数だ。このジャイアンツ3連戦でも3つ加算して、現在リーグトップの65コだ。「四球がベストだとは思わないし、打つのが一番だけど、四球もヒットと同じというように考えている」とは言うが、なかなかそうはなれない。打者はどうしたって打ちたいものなのだから。「ボール球を打つ技術はないからね」。独特の言い回しは鳥谷らしいが、実際どう考えているのか。「ボール3つになったところで四球を狙いにいくことはない。打ちにいった中で止まれている。打つのが一番だけど、四球も大事だから」。

しかし、打ちにいきながら止まれる―というのも技術が要ることだ。だって打者は打ちたいものだから。「自分でも見れてるとか、見極められてるとかの意識はないんですよ。ただ、考えてるのは状況と、ピッチャーの状態やコントロール。まぁ、ただただ思いきっていくだけ―というのは無くなったけど」。これは相当な冷静さによるものだ。しかし鳥谷はさらりと言う。「その時の状況で際どいところは見ようとか、まぁたまたま状況判断でそれが四球になって、その積み重ねが今の数になってるだけ」。


鳥谷 敬 選手

技術は勿論だが、やはり高度なセルフコントロールの成せる技だということだ。和田バッティングコーチはこう解説する。「今年はストライクゾーンの関係で、選球眼のいいバッターほど損している」。昨年より広くなったストライクゾーン。それによって自分のバッティングゾーンまで広げてしまっては「崩れる」というのだ。

しかし鳥谷は違う。「打ちたくてバッティングゾーンを広げて、ボールにまで手を出してしまうというのがない。ちゃんと自分で見極めて我慢できる」とのこと。“自分のストライクゾーン”がブレないのだ。「だから率も残せるんだよ」。和田コーチが話すとおり、24日のゲームで3割に乗った。まだまだ前後はするだろう。しかしこの調子でいくと、最終的には今年も3割は越えそうだ。質量ともに半端ない練習で自分を追い込めるストイックさと、実戦での冷静な判断、そして切り換えの早さ。心技体―今、全てが充実している虎のリーダーが、残り26試合を引っ張っていく。