一昨年、21年ぶりに甲子園球場で開催されたウエスタン・リーグのナイトゲーム。昨年は残念ながら雨天中止となってしまったが、今年は予定通り、7月9日にソフトバンクを迎えて開催された。この試合の前日に近畿地方の梅雨明けが発表され、真夏を思わせる青空が広がった甲子園球場。試合開始の17時時点では明るいというよりも、照りつけるような日差しのもと、いつもは鳴尾浜で汗を流す若虎たちが、憧れの地甲子園球場でナイトゲームを堪能した。
鄭凱文 選手
タイガース先発は今シーズン絶好調の鄭凱文投手。この試合登板前まで30イニング連続無失点、6月は4試合15イニングを投げて許した走者は味方エラーによる1人だけで、1本のヒットも許さない圧巻のピッチングを続けていた。初回は今宮選手を143キロのまっすぐで見逃し三振、仲澤選手を146キロまっすぐで三ゴロ、前日久保投手から本塁打を放っていた柳田選手を142キロまっすぐで見逃し三振と、上々の立ち上がりを見せた。しかし二回、先頭の小斉選手にライト前ヒットを打たれて、5月31日のソフトバンク戦(ヤフードーム)以来、20イニングぶりに安打を許すと、李杜軒選手にもヒットを許して二死一、三塁のピンチを招き、四回にも多村、李杜軒選手に連打を浴びて二死一、二塁のピンチを迎えたが、後続を断ちきり、結局この日は5回を投げて無失点と連続無失点イニングは35まで伸びた。試合後、鄭投手は「今日はダメでした。まっすぐも変化球もコントロールが悪くてボールも甘かった。野手に助けてもらいました。リズムもテンポも悪かったです」と反省しきり。確かにこの日の鄭投手は抜け球、コントロールミスが多く、一軍で投げることを想定した場合、不安の残る内容だった。とはいえ、昨年までは打たれだすと止まらない傾向があったことを考えれば、ピンチを背負いながらも悪いなりに0に抑えられたことは収穫だった。
荒木 郁也 選手
一方打線のほうは三回、二死から一番荒木郁也選手がセンター前ヒットで出塁すると、二番俊介選手の打席で二盗に成功。そして俊介選手のセンター前ヒットで荒木選手が二塁からホームを踏み、一、二番の足を絡めた理想的な形でタイガースが先制点を挙げた。前日の同カードでは4安打を放ち、打つほうでは大活躍の荒木選手だったが、守・走では盗塁失敗や送球ミスでダブルプレーを成立できなかったりと手放しでは喜べない内容。「練習を積んでいかないとダメですね」との言葉通り、この日は試合前に特守を受け、四回に柳田選手の一、二塁間を破ろうかという鋭い当たりを好捕したりと、攻・守・走でアピール。荒木選手は「守備もいつもこれくらいしないと」と語り、守備、走塁面を底上げして一軍再昇格を狙っている。
葛城 育郎 選手
試合開始1時間が経過した四回から銀傘の上の照明が点灯し始め、だんだんとナイトゲームらしくなってきた甲子園球場。五回には原口文仁選手がレフト線2ベースで出塁し、鄭投手に代わって代打葛城育郎選手がアナウンスで告げられると、この日一番の歓声が起こった。その歓声に応えて葛城選手がセンター前ヒットでチャンスを拡大させると、ソフトバンク内野陣のエラーも絡み、この回4得点を挙げて試合は俄然タイガースペースとなった。
原口 文仁 選手
19時を過ぎたころにはアルプス、外野の照明にも灯が入り、日も暮れなずんできた六回。先頭の田上健一選手が内野安打で出塁すると、先ほどレフト線へ2ベースを放った原口選手が、今度はボールをライト前へと運んで無死一、二塁と五回に続くチャンスを迎えた。ここで黒田祐輔選手の打球をソフトバンクのショート今宮選手が二塁悪送球で1点追加。荒木選手の死球をはさみ、俊介選手のこの日2本目となるタイムリーなどで、この回合計3点追加して8-0とした。6月29日に打撃不振でプロ入り以来初めて一軍出場選手登録を抹消された俊介選手は、この日を含むソフトバンクとの三連戦では12打数7安打8打点と大当たり。バスター、盗塁など小技もきっちりこなし、「塁に出るときは出る、還すときは還す、走る場面は走るといった状況に応じたものは出せている。これを続けていってくれれば」と吉竹春樹ファーム監督も一定の評価。フォーム固めを課題としている俊介選手も「いい感じにはなってきました。しっかり結果を残して一日でも早く上がれるようにしたいです」と早期の一軍復帰を目指している。
俊介 選手
試合のほうは七回に1点を返されたものの8-1で逃げ切り、年に一度のファーム甲子園ナイターはタイガースの快勝で終わった。この日発表された観客数は2887人と一軍の試合に比べれば1/10以下だが、観客がバックネット裏に集中し、鳴り物応援もないため、ピッチャーが投じたボールがミットに収まる音や打球音、それに対する拍手や歓声が銀傘に響き渡る。心地よい浜風に身を委ねてゆったりとした感覚で味わうボールゲーム。この日甲子園球場に来場したファンはいつもとは違った感覚を堪能することができたのではないだろうか。