炎天下なのにスタンドが凍りついた。あろうことか、学生相手にプロが信じられないミスを連発。若虎たちは屈辱の敗戦に肩を落とした。
8月16日(火)、真夏の日差しが降り注ぐ鳴尾浜で、阪神ファームと関西大のプロ大学交流試合が開催された。春の近畿大戦を皮切りに今季から学生野球との交流もスタート。8月は関東遠征(6日~7日)も行い、慶應義塾大・東洋大とも手合わせしている。
白仁田寛和 選手
16日(火)は、関西大学が相手。試合前には両チームの全ナインで記念撮影を行った。球団関係者によれば、「今年はとりあえず初めてですから・・・」プロと大学による歴史的な交流戦を記録に残しておく意味があるとの事。勿論、学生側にとっても全員写真を撮っておくのは嬉しいに違いない。スタンドに詰め掛けた野球ファンもこの光景を微笑ましく見つめていた。登板翌々日でこの日は完全オフだった関西大学出身・岩田稔投手も母校の激励に訪れたが、「後輩の元気な姿を見られて良かった」と目を細めている。
試合は、若虎が一度もリードする事のないまま4対3で敗れる。16残塁と拙攻が目立った慶大戦(6日 ● 2-3)に続く黒星だが、今回は守備でミスが続出した。特に8回表は、ショート藤井宏がゴロを弾いて先頭打者出塁を許すと、次打者のバントを白仁田が二塁へ悪送球。その後、暴投やベキオナチ、橋本の送球ミスも重なり、この回ヒットも四球も無しで致命的な2点を失った。途中までは緊迫した好ゲームだっただけにプロが6失策と自滅してしまったのは、内容として非常に残念である。
橋本良平 選手
白仁田寛和投手は、「サインミス二つして、エラーもあったんで、しっかりやって行かないといけませんよねぇ」とガックリ。8回二死1・3塁でスタートした一塁走者の動きに気を取られ、送球が引っかかって足元に叩き付けて三塁走者の生還を許した橋本良平捕手も唇を噛んだ。「思わず熱してしまって・・・恥ずかしかった。サインは、サード見てからと言うのだったが、久しぶりやったんで『来た~!』と思って、やってしまった」。
関西大では、和田豊一軍打撃コーチの長男・和田優輝内野手(2年)が出場。代走として得点を記録し、サードの守備にも就いた。「父が所属する球団であり、僕らとは一つも二つもレベルが違うチーム。実力の差は出るが、学生らしく全力プレー、全力疾走でやろうという意識があったし、恥ずかしいプレーは出来ない」と、必死だったそうだ。幼い頃、阪神のスタープレーヤーだったお父さんに連れられ、甲子園にも何度か出入りした。「父からは、出来ることはやれ!元気出して、挨拶はちゃんとしとけ!と言われた」らしく、八木裕コーチや中村豊コーチらにしっかり頭を下げていた。プロとの試合はこの日の阪神が初めてで、「貴重な経験。春のリーグでは、延長とか接戦での粘り負けが多かった。今日は粘り勝ちが出来たのが大きい」と胸を張った。
立石充男 育成チーフコーチ
実はこの翌日17日(水)、関西学院大学との試合も9回に決勝点を奪われ、1対0と惜敗。関西の学生に『歴史的な』連敗を喫した。勿論、公式戦ではないし、ファームの中でも発展途上の若い選手が主力のメンバー構成だ。加えて、相手は全力、必死で挑んで来る。そういった様々な要素が絡まっての結果ではあるが、首脳陣は妥協を許さなかった。関大との試合後には数十分に及ぶミーティング。そして、本格的な実戦守備練習で反省点を洗い出している。
「理由があると言うけど(実際にミスが出るのは)集中してない証拠。相手をナメてる証拠や!去年メッセンジャーは育成試合に投げても、『相手がどこであっても関係無い!』と言う気持ちだった。(彼のような姿勢を見習って)1打席、1プレーを無駄にしない。(そういう意識で)事前に準備しておかないと。何か掴もうと感じてやらないと・・・!」。立石充男ファーム育成チーフコーチは、厳しく吐き捨てた。「(相手の大学生のように)喰らい付く姿勢がない。ウチも一生懸命やってるんやで。その中で(結果が伴うように)やらなアカンねん!」。
吉竹春樹 ファーム監督
ファームの総帥・吉竹春樹監督も、「普通に一つずつやっていれば何てことないのに・・・あれだけミスしたら。投手も投げた後は自分も野手だし、そういうとこ怠るのは・・・。結果はともかく、良い姿勢を出してくれないと・・・」と苦言を呈した。
永尾泰憲ファーム守備走塁コーチは言う。「ファーム、しかも育成だし、ある意味じゃミスは出た方がイイ。しかし、何年もやってる選手もいるからね。(練習を重ねるなどして)自信を持つことで克服するしかない」。奇しくも一軍の14日(日)神宮・東京ヤクルト戦で満塁一掃の信じられない大落球を犯してしまった柴田講平外野手に話題が及んだ。「高く上がった一番難しいフライ。早く来い、早く来いと思ってグラブを(早すぎるタイミングで)出してしまった」。大観衆が見守る中、あらゆる環境下で当たり前のプレーを当たり前にこなすのがいかに大変な事か?それが出来るからこそプロの価値がある事を思い知らされる思いがした。
藤井宏政 選手
関大戦では、走塁ミスや失策もあった藤井宏政内野手。無死2塁の遊ゴロで三塁を狙ってアウトになったが、「(打球が)自分の左側なら走ろうと・・・ショートの位置が分かっていなかった。アウトカウントも頭に入っていなかった。(エラーは)早く捕ろうと思って(バックハンドで行こうとしたが・・・)」などと反省が口をついた。それでも1年目よりも2年目、3年目と着実に進歩を見せているのも間違いのない事実だ。この日も豪快な二塁打を放つなど、敗戦の中で光を放った。「最近は長打も出てきてる。しっかり捉えられていると思う」。少しずつ自信も大きくなっている。
「大変励み」になっているのは母校・加古川北高の存在だ。春はセンバツに出場。今夏は甲子園に出られなかったが、兵庫大会決勝で延長15回の熱戦を演じて、再試合に持ち込む粘りを見せた後輩たちに力をもらっていると言う。
忘れていた大切なものを再発見するなど、選手それぞれが原点に戻る季節・・・それが夏なのかもしれない。