既に連覇は夢と消えていた。今季のウエスタン・リーグは、東海の竜が頂点に・・・。発展途上の若虎達は、文字通り挑戦者として『新たなスタート』を迎えた。
9月19日(月・祝)、阪神ファームは、ナゴヤ球場に乗り込んでいた。前日の18日、眼下の敵ソフトバンクに快勝して2年ぶり16回目のウエスタン・リーグ優勝を決めた中日との今季最終・26回戦。一軍を含め過去何度も激闘を繰り広げて来た両雄は、この日も最後の最後まで諦めないナイスゲームを見せてくれた。
坂 克彦 選手
ナゴヤドーム完成以前は一軍の本拠地でもあったナゴヤ球場は、名古屋駅から在来線で最寄り駅までわずか数分という抜群のアクセスを誇る。台風の影響で大雨に悩まされた連休だったが、敬老の日は晴れてくれた。スタンドには関西からやって来た熱心な猛虎ファンの姿もちらほら。鳴尾浜と同じように合宿所・室内練習場を同じ敷地内に併設する竜の巣窟で、長きに渡って毎年の優勝争いからまず外れる事がない中日の強さの秘密がここにある。
「ファームと言えども、オレは勝負にはこだわるよ!」・・・現役時代から中日一筋。一軍打撃コーチを経て若竜の指揮官に就任した今季、いきなりリーグ優勝を果たした井上一樹監督(40)は、選手の兄貴的な存在でもある。一方で全員が自分よりも歳上のコーチ陣に対しては、敬意を払うのは当然だが、「舐められてもいけないし、(監督として)言うべき事は言わないと・・・その辺が難しい」と、距離感のバランスに注意を払って来た。自ら明るいムードを醸し出して、常に声の出る「活気のある、元気のある」チームを目指す中で、「メリハリをしっかりつけられる事」を選手に求め続けたという。
そんな指揮官に若虎の印象を尋ねてみた。「阪神?・・・うん、素材はまだまだ原石だろうけど、磨けば光るだろう!という選手が多いですよ。コレが秀でてる!というのが明確な選手というのかな?足速いな!とか、肩強いな!とか、「このコは、コレで生きて行くべきだな」というのはハッキリしてる。今、(チーム状況としては)世代交代云々でチャンスなんでしょ?あとは、オレがオレが!の精神でどんどんアピールして行けばイイ!」。
鄭凱文 選手
「でも、それは(ウチの選手が)未熟だという事でしょ?」。・・・若虎を率いる吉竹春樹ファーム監督は、中日との差に選手の円熟度を挙げた。「野手陣の打撃の捌き方。普通に打つ技術が上。中田(亮)クン然り、柳田クンとか福田クンとか、しっかりしてる。そこに(一軍でも実績ある)藤井クンとか岩崎(達)クン・・・。捕手は、松井(雅)クン。今日は前田クン。守備だけでなく、打撃もしっかりしてる。肩もイイ訳やから・・・。まして今年は、投手も伊藤クン、小熊クンとか。今日みたいに小笠原クンや、山井クンがいたら・・・」。淀みなく相手選手の名前が出てくる。自軍においても若手個々のレベルアップが急務である事が、指揮官には痛いほど分かっているのだ。
試合は、鄭凱文(ジェン・カイウン)投手が先発。6回を投げて9安打6失点(自責5)と内容は良くなかったが、ひとまず規定投球回に達した。防御率1.74は、同僚の蕭一傑投手(2.81)らを抑えて余裕のリーグ1位。初タイトル獲得の為には、シーズン終了までに2/3イニングまだ足りないが、あと2試合の中で達成はほぼ間違いないだろう。鄭は反省していた。「打たれたのは、セットのタイミングが少し悪い」と走者を背負った時の投球に課題を残した。中西清起ファーム投手コーチも、「ちょっと(体の)開きが早い。セット(ポジション)が特に。開きが早い分、スライダーとかバッターに見えちゃう。今回に限らず、その前の前くらいからその傾向がある」と話している。
藤井宏政 選手
鄭が打たれた事もあって、6回までは優勝を決めた竜の勢いに押されて6対0と一方的な展開だったが、7回表に桜井が代打アーチを放って流れが変わる。ヒットの野原将を一塁に置いて打席に入った桜井広大外野手は、3ボール1ストライクからの直球を狙いすましてレフトへと運んだ(4号2ラン)。それまで抑えられていた中日先発の左腕・小笠原だが、「何度も対戦してるので・・・」と余裕を持って打席に入った桜井。打者有利のカウントで「甘い真っ直ぐを待っていた。それまでの変化球を見極められたのが大きい」と話す。今季はここまで一軍からのお呼びがかからないが、一発長打の魅力を秘める男は気持ちを切らさず我慢の時を過ごして来た。「結果を出すというのは、一球を無駄にしないと言うこと。集中力を持って一発で結果を出す。少しでも戦力になれるように、いつ呼ばれても大丈夫なように準備したい!」。
続く8回にはドラゴンズのリリーフ陣に打線が襲いかかり、代打・藤井宏の2号ソロ。野原将のこの日3安打目となる4号2ランで1点差に迫ると、二死後、坂がライト前にタイムリーヒットを放って、ついに途中出場の穴田が同点のホームを踏んだ。優勝チームを相手に終盤粘りに粘って追いついた執念は賞賛に値する。
鄭を継いだ虎の救援陣は磐石だ。ファーム調整中のビッグネーム、小林宏・久保田のあとも、9回・10回は玉置、横山が三人ずつで片付け、試合は延長10回、6対6の引き分けに終わる。「コバヒロはもう大丈夫。久保田は真っ直ぐが良かった。後ろの二人(玉置、横山)も厳しい状況の中で、長いの(長打を)打たれないように変化球を良いコースに集めてた。横山も、カラスコに長打浴びないようにしっかり投げられていたよ!」。中西コーチが目を細める内容だった。「野手が必死で追いついてくれた試合を壊したくなかった。高さだけ、ホント注意して、あとは腕を振る事だけ」考えて投げたという玉置隆投手。まさにチーム一丸で持ち込んだ敵地でのドローに笑顔がこぼれる。
横山龍之介 選手
昨季の栄冠を守る事は出来なかったが、勝負の世界に立ち止まっている時間はない。たとえ負けたとしても、次のステージへと進むだけだ。したたかな挑戦者ならば、ライバルからも学ぶべき。悔しさを胸に再起する若虎たちのさらなる成長を期待したい。