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TORABAN Tantou Kisha ColumnCOLUMN INDEX

Vol.2011-13 新たな開幕『4.12』へのリスタート


城島健司 選手

「ノーアイディア!」。世界を知る百戦錬磨の男に修正すべき点は何もなかった。「(当初予定の3月下旬)開幕に合わせてやって来てるんだよ。4月12日を待つだけ。何を今さら・・・今頃何かする事があるのなら調整不足でしょ?」。

東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の影響を考慮して日程延期が検討されていた問題はニ転三転の末、3月24日の12球団臨時理事会、26日のプロ野球オーナー会議を経て、今季の公式戦開幕がセ・パ同時の4月12日に正式決定した。流動的な状況下、なかなか確定しないスケジュールに翻弄された選手たちもようやく新たに設定されたスタートラインに向かって気持ちを集中させる事が出来る。

冒頭のコメントは、3月28日の城島健司捕手である。オフに左ヒザを手術し、驚くべきスピードで回復。当初は絶望的と見られていた開幕マスクが実現しそうだ。とは言え、半ば『突貫工事』気味に復帰プランを組んだのも事実。首脳陣は、3月25日(後に29日)に合わせて来たペースを一旦スローダウンさせる事を決めている。


金本知憲 選手

29日(火)と30日(水)には京セラドーム大阪で、本来はここで公式戦が予定されていた相手・中日と実戦形式の合同練習が行われた。トレーナーの意見なども参考に、このカードにおいては城島と、やはり右肩が万全ではない金本知憲外野手の二人は守備に就かない方針で臨んでいた。吉田康夫バッテリーコーチは、「(3月下旬に合わせて)追い込んでピークを作って来たから1回(ペースを)落とすと・・・。(改めて4月12日の)開幕に合わせ、逆算して(プランを)組み替える」と説明する。

こうした事情もあって、試合形式の合同練習では中日が2試合とも投手が9番に入るペナントレース(セリーグ)型のオーダーを組んだのに対して、阪神は金本、あるいは城島が6番に指名打者として座るDH制を敷いていた。


新井貴浩 選手

日程変更に至る一連の流れの中で、『労働組合 プロ野球選手会』の会長として12球団全選手の声を集めるなど東奔西走した新井貴浩内野手。被災された人々の事を思い、野球界全体の為に大きな役割を果たした新井に対して、坂井信也オーナーが(30日)直接労いの言葉をかけた事からも彼の功績が見てとれる。実際のところ、とても野球に集中出来る状態ではなかった事は周囲の目にも明らかだった。

「それとこれとは別の問題」と、本人は決してその間の打撃不振の理由にはしなかったが、ようやく日程問題が決着した事で再び野球に専念出来る状態となったのは事実である。

28日の全体練習(京セラドーム大阪)では1時間以上前から早出の打ち込みを敢行するなど、新井の懸命な姿があった。その甲斐あって、29日の実戦形式では初回の打席で(オープン戦、練習試合などの実戦)『25打席振り』のヒットを記録。翌30日には、やはり第1打席で中日・小笠原の変化球を強振してレフトへの逆転3ランを放ってみせた。

「良かったです。初球から自分のスイングが出来た。試合前の練習とかも、だいぶ感じ良くなって来た。(これまでは)ずっとスイング自体出来てなかった。甘い球でも空振りしたり、浅いカウントから(打ちに行っても)全然振り遅れてたりとかね」。長いトンネルから光が差し込んで、安堵の表情になっていた。

和田豊打撃コーチも本塁打が出る前日、「一時は・・・野球に集中というか、やろうとしても出来ない環境。気持ちの上でも体力的にも、それがホントのところじゃないのかな?今日の(ヒット)1本でどうのこうのじゃないが、練習の時からカタチがしっかりして来てる」と話していた。ティー打撃で緩いボールを打つ特訓も繰り返し、新井自身が「自分のポイントでスイングする事」に意識を集中させた結果が実を結び始めている。

やはり、オープン戦中盤までは不振だったマット・マートン外野手も、やっとエンジンがかかって来た。20日・21日の札幌ドーム(北海道日本ハムとのチャリティーOP戦)で調子を取り戻したかに見えたが、23~25日のマツダスタジアム(広島との合同実戦練習)では下降線に転じ、「リズムとタイミングが合わない時はバラバラになる」不安定さが気がかりだったが・・・。


マット・マートン 選手

「マートンは、このオープン戦(期間)に関しては、良い日と悪い日がハッキリして、ある意味マートンらしくなかった。今日・明日・明後日と言うように続いて来ると(本来の姿だと言える)。マートンに関しては(4.12開幕までの)この2週間、そういった感じで見て行きたい。ただ、一回(感じを)掴んで落ちて来た時期だし、暗闇でもがいてた時期は抜けてるんで・・・」。和田打撃コーチは、もう少しで全開になる事を予見していた。

すると30日の実戦形式では、いきなり小笠原からレフトオーバーの二塁打を放つなど4打数3安打の固め打ち。前日の2安打に続き、いずれも会心の当たりで『エンジン全開』となった。「昨季初めて600打席(668)に立つ事が出来たが、オフから和田コーチと(今季に向け)何が大切か?を探って来た。その結果、メジャーのビデオなどから優れた打者が実行しているポイントが2つあると・・・体重移動とステイバックだ。誰しも弱点が有るけど、この2つのポイントをクリアすれば、弱いところをある程度カバー出来ると思っている」。


マット・マートン 選手

左足を高く上げてタイミングをはかり、トップの位置を後ろにすることでボールとの距離を取って、しっかり叩くことで球に力が伝わるスイングが出来る。・・・実に論理的な分析から今季のスタイルを編み出し、キャンプから作り上げて来たという。「やろうとする事が成功するかどうか?は終わってみないと分からない。常に修正して行かないといけないと思っている。ただ、昨年やった事をガラリと変えてる訳ではない。昨季のスタイルをベースに、例えば体重移動のスタートを投手の手の位置が下か?上か?と言ったような点をほんのわずか、マイナーチェンジするに過ぎないんだ」。根本的な変化ではないから十分に成算があると自信を持っている。

誰もが認める敬虔なクリスチャンである。言うまでもないが、今回の大震災には心を痛めている。「日本のみなさんにとって大変な時期だと思う。自分も辛い気持ちだけど、プロ選手として前に進んで行かないといけない。大局では野球よりも大切な事もあるが、一旦ゲームが始まって1球目が投げられた瞬間からは勝利の為プレーに集中する」。悲惨な現実を思うからこそ、敢えて自分のすべき事を黙々と務めあげる。

目標も彼らしい。「去年よりヒットをたくさん打とうとか数字ではなく、プレーヤーとして全てにおいて完全な選手になりたい。他人はコントロール出来ないが、自分自身が出来る最大限の事をやりたいし、開幕戦では全打席でヒットを打ちたいと思う。勿論状況に応じては走者を進める事も大切だ。1打席1打席、毎試合毎試合やるべき事を果たして行きたい」。

悲しい出来事の為に開幕は遅くなった。暗く沈んだ世の中がほんの少しずつでも明るくなって行く事を願って・・・猛虎たちもまた一人一人がひたすら開幕へと静かに準備を進めて行く。