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TORABAN Tantou Kisha ColumnCOLUMN INDEX

Vol.2011-19 整ってきた「戦う形」に“虎の要”藤井の存在

2011年のセ・パ交流戦が幕を閉じた。優勝はホークス。78勝57敗9分けで今年もパ・リーグの力が勝っていた。特に際立ったのは、パの先発ピッチャーだ。ダルビッシュ(ファイターズ)の0.21を筆頭に、3投手もが0点台の防御率を誇る。タイガースは10勝14敗で4つの負け越し。交流戦前の借金を減らすことができなかったばかりか、逆に膨らませてしまい、6月19日現在、7つの負け越しだ。交流戦で苦戦し、恐らくここ何年もなかったであろう「ドン底」まで落ちたタイガース。しかし、底は打った。交流戦終盤から徐々に打線が上向きはじめ、元々安定していた投手陣との噛み合わせも良くなり、「戦う形」が整ってきた。その要因の一つに、藤井の存在が挙げられるだろう。

今季、FAでタイガースに入団。確かな実力とその明るいキャラクターですぐにチームに溶け込み、ベンチでもムードメーカーとしての存在感を発揮していた。高いキャッチング技術に巧みなリード。その力量には定評があるものの、なかなか出番は巡ってこない。そもそも昨年オフ、左ヒザを手術した正捕手・城島が開幕に間に合わないかもしれないという危惧があり、その危機管理から声がかかったのが藤井だった。しかし城島は間に合わせてきた。プロとして、正捕手のプライドをかけて開幕に間に合わせた。なかなか巡り来ない出番。城島を休ませる為にマスクを被ることはあったが、勝利に繋がらない。スタメンマスクで自身4連敗。「そりゃヘコむよ」。試合後こそ口数少なく落ち込んだ様子を見せたが、翌日はしっかり切り換えて、いつもの人懐っこい笑顔を見せていた。

その矢先、城島が右ヒジの故障で戦線離脱。虎の要は藤井が担うことになった。すると歓喜の時はすぐに訪れた。8日のQVCマリンスタジアム。メッセンジャーをリードして3失点に収めると、榎田-小林宏-藤川と繋いでマリーンズを下した。翌日は同じカードで連勝。自身も2安打2打点で大きく勝利をアシストした。この時、本人より喜んだのがベンチだ。「まるでプロ初タイムリーみたいに、みんなが盛り上がって・・・」。チームメイト皆が心から祝福してくれたのは、藤井の人柄に他ならない。次のライオンズ戦での3連勝目は、能見の完封を演出した。「能見の球がキレてたから」。あくまでもピッチャーを立てるが、投手陣は間違いなく安心感を持って投げられている。そして甲子園に帰ってきた。交流戦は残り2カードを残すのみとなった。

パ・リーグトップクラスの武田勝とダルビッシュと当たる2連戦。戦前の予想は、明らかにタイガース不利だった。「ファイターズはみんながチーム打撃ができる。塁を進めて、少ない点数をピッチャーが守る。足も速いし、動いてくる」。藤井はこう分析した。そして誓った。「先に点を与えない。“守り負け”しない。ミスや四球を少なくして、流れを向こうにやらない。0に抑えれば負けることはないんやから」。

先発の岩田は前回同様、早めの準備でスムーズな立ち上がり。初回、高校の後輩である中田を得意のスライダーで3球三振に斬ってとった。二回。予想どおり相手は動いてきた。一死からヒットとエンドランで一、三塁。ここで鶴岡が初球にスクイズ敢行!しかしバッテリーは見破り、ピッチャー前に転がった打球を岩田がグラブトス。生還は許さなかった。「ランナー見ろよ」と指示を出した藤井に、岩田もかつて鶴岡にスクイズされた記憶を手繰り寄せた。「自分自身、梨田さんにサインを出されてたんでね。スクイズもエンドランも何となくわかる」。バッファローズ時代に師事した監督の手の内を、愛弟子はしっかり読みきっていた。岩田-武田勝の左腕対決は、どちらも一歩も譲らない。スライダーが冴え渡る岩田は、三振の数を積み上げていく。一方の武田勝は虎打線を翻弄し、要所を締める。タイガースは数少ない得点機をことごとく潰していった。


岩田 稔 選手

勝負を決したのは九回裏だ。この日“三度目の正直”で打席に立った関本が、サヨナラを決めたのだ。1-0の完封勝ちだ。「途中からスライダーを狙われてたけど、藤井が上手かった。ツーシームをうまく使った。藤井はバッターの狙いを惑わす配球ができる」。吉田バッテリーコーチも唸った。藤井自身も「カウントを悪くしてストライクを取りにいって痛打されるのだけはやめよう」と岩田と打ち合わせていたことを明かし、スライダーとツーシームをうまく混ぜて抑えられたことに手応えを感じていた。

翌日はダルビッシュ攻略に、チーム一丸となって臨んだ。通常のバッティング練習では、打撃投手はマウンドから1mほどバッターに近づいた位置から投げる。ところがこの日は更に約40cm前の位置から投じた。ダルビッシュの156km/hに対応する為だ。その効果もあってか、初回から攻めていけた。「純粋に対戦が楽しみと思える数少ないピッチャー」と珍しく本音を語った鳥谷が口火を切ると、新井も続いた。得点にこそならなかったが、ダルビッシュには明らかに動揺が見られた。そして三回。ダルビッシュの連続無失点記録はあっけなく幕切れとなった。自身の暴投によって、46イニングでストップした。六回に同点とされた後、タイガースは七回、代走・柴田の足で1点をもぎ取り、再びリードを奪った。「一歩目が遅れてたらアウト。紙一重だった」。そう振り返った柴田は確かに最高のスタートを切り、抜群のスライディングでホームを奪った。終わってみれば2-1の最少点差での勝利。ダルビッシュに、実に9安打を浴びせての勝利だ。「追い込まれて簡単に打てるピッチャーじゃない。好球必打だよ。ほぼ全員が、1球たりともストライクを逃さないぞという気持ちだった」。充実感溢れる表情で和田バッティングコーチが語った。そして藤井に対し、この日もまた「ゲームの中で相手をよく研究している。打者の反応を見て、うまく攻めた」と、吉田コーチは賞賛を惜しまなかった。


柴田講平 選手

古巣・イーグルス戦は、藤井にとって楽しみの一つだ。幼馴染みの松井と戦えるからだ。小中と同じ少年野球チームでバッテリーを組んだ1つ年上の松井は、こう振り返る。「仲良かったよ。アイツ、センス抜群で、ピッチャーでもキャッチャーでもショートでも、何やらせても上手かった。身体能力高いねぇ」。メジャー帰りの松井をして、ここまで言わしめる。「おもろいヤツ。“いらんことしぃ”やね、オレと一緒で。打席でアイツが喋ってこんことを願うわ」。残念ながら初戦は松井に決勝2ランを浴びた。


藤井彰人 選手

降雨コールド負けの翌日は、交流戦ラストゲーム。前日35歳の誕生日を迎えた藤井。「パパ、おめでとう。頑張って」と手紙をくれた小学2年の愛娘は、ナイター後も起きて待っていてくれたが、ゲームの内容には「何やってんねん!」と手厳しかった。「2~3歳から観てるからなぁ。全部わかっとるねん」と、パパは頭を掻くしかない。それだけに負けられないラストゲーム。立ち上がり、不安定だったスタンリッジを必死にリードした。「まっすぐが定まらんかったからカットやスライダーで合わせていって、イニング重ねていくうちに合ってきた」。うまく乗せられ、完封を成し遂げたスタンリッジも「藤井さんのリードが素晴らしかった。常に自分と同じプランでリードしてくれた。感謝したい」と最敬礼だ。先制打も放ち、甲子園初お立ち台は、藤井が待ち望んでいた場所だ。「気持ちよかったぁ」。心の底から味わった。父の日。自分にソックリだという愛娘が待つ家に、今日は胸を張って帰ろう。きっと誰よりも喜んでくれるに違いない。

24日からはいよいよリーグ戦再開だ。「2連戦から3連戦になる。アタマを取るのが大事」と気持ちを引き締める藤井。「波には乗ってるけど、まだ先がある。借金を返して、1つでも2つでも上にいきたい」。“正捕手”として戦うリーグ戦。もちろんシーズン最後まで、ホームは誰にも明け渡さないつもりだ。